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部屋の前まで抱き上げられ移動させられ、絶望感で身体から力が抜ける。そこで、漸くお母さんが僕を下ろした。床に足がつけば再び逃げ出したい衝動に駆られるが僕を下ろして手を握るお母さんの手がそれを許さない。
このまま、お母さんの手を振り払うより実際僕の視たものをお母さんに見せた方が早いかもしれない。そうすれば、部屋を替えて貰えるかもしれない。我ながらいい考えだと思った。僕はお母さんの手を軽く引っ張り、内緒話をするように声を潜めた。
「…お母さん、僕の部屋…壁から手が生えてるんだ…。だから、僕…この部屋で居たくない…。」
ひらりと舞う手。思い出せば恐怖で表情が歪む。思わず、握っていたお母さんの手に力を込める。真剣に訴える僕にお母さんはきょとんっとした表情を向けた後、笑いだした。
お母さんはあれを見てないから笑えるんだ。僕の心に怒りが湧き上がる。直ぐに笑えなくしてやる、そう思って僕は部屋の扉を開け放った。初めに来た時と変わらず、日当たりが良く温かい空気に包まれる。最高の部屋だと思う。あの手さえなければ。
「見てよ!お母さん。あれ…、あんなのがある部屋、僕は嫌だからね!!」
扉を開け僕の目には変わらずあの白い手が視える。それを指さし、お母さんにも見るように促す。が、お母さんの反応は僕が思っていた反応とは違った。
「…何も見えないけど?いい部屋でしょ?お母さんも忙しいんだから、部屋で大人しくしててね。」
僕の手を振りほどいて、両肩へとお母さんの手が添えられ部屋の中へと僕の身体を押し込む。思ってもいなかったお母さんの反応に不意をつかれた僕は、あっさりと部屋へと再び足を踏み入れてしまった。お母さんは有無を言わさず、僕を部屋に押し込んで扉を閉めた。
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