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子供ながらに、この仕打ちは酷いと思った。忙しいとは言え、ちゃんと話を聞いて貰えない上にこんな恐ろしい部屋へと放り込まれ、絶望感に部屋の扉に凭れかかって声を殺して泣いた。もう、大人は信用出来ない。大袈裟かもしれないが、自分の身は自分で守らなければ。
零れる涙を袖口で力強く拭き取る。目元がひりひりと傷んだが、そんな弱音は吐いてられない。独りでこの状況を乗り越えなければならない。
精一杯自分を奮い立たせる。震える膝小僧を軽く叩いて震えを止める。涙を拭ったけど視界には相も変わらず壁から突き出した手がひらりひらりと優雅な仕草で動いている。僕の事など何一つ気にも止めない。
僕はまず、その手を扉からじっと観察した。動きは不規則で、見た目は儚そうに見えた。白い手を目を凝らして見ていれば薄らと壁紙が透けて見える。じっと見つめていると、ひゅっと白い手が視界から消えた。小さく驚きの声を漏らし僕は目を擦る。
目をぱちぱちと瞬いて、白い手が生えていた壁を再度見る。手が跡形もなく消えた。幻、だったのだろうか。どっちでも良かった、僕は勝利したのだ。僕はこの部屋を勝ち取った。そう思うと嬉しかった。
意気揚々にガッツポーズをしようとした、その瞬間。あろう事か、僕の顔の横。部屋の扉から再び白い手が生えてきたのだ。僕は小さな悲鳴を上げ、もんどり打って部屋の中央に転がった。
僕は反射的に起き上がって、移動した白い手を睨みつける。勝利を確信した瞬間、それを覆され悔しかった。睨みつける白い手が僕を馬鹿にしたようにひらひら動く。何とも言えない気持ちが込み上げる。
だが、分かった事がある。この手は壁を伝って移動出来る。安全なのは部屋の中央。今、僕が立っている所だ。
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