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安全な場所を見つけた僕は、白い手に子供ながらの挑発をしてみる。あっかんべーをしたり、お尻を叩いてみせたり小馬鹿にした罵声を浴びせかけるが、白い手は素知らぬ顔をするばかり。顔、というには正しい表現とはいえないが、僕にはそう見えた。
この白い手を追い払うにはどうしたらいいだろう。今までにない出来事に方法が思い浮かばない。小さく唸っていると、不意に部屋の扉が開いた。開いた扉からお母さんが顔をだした。
「祐樹、荷物を運び込んで貰うわよ。」
お母さんの言葉の直ぐ後に、後ろに控えていた引越し業者が僕の勉強机を運び込んできた。お母さんが、窓のある壁際を指差し引越し業者がそこへ机を運ぶ。僕は慌てて業者の前に躍り出て、それを阻止するように両腕を広げる。
「ダメ!!壁際に置かないで!!」
引越し業者は困ったように顔を顰めると、お母さんの方へと顔を向ける。お母さんは小さく溜息をついて、大きく広げた僕の手を引っ張って場所を空ける。"ごめんなさいね。"とお母さんが引越し業者に頭を下げ、作業を続けるように促した。子供の僕には何の権限も持ち合わせていなかった。
僕の意志とは関係なく、僕の机やベッド色々な持ち物が運び込まれ部屋に配置されていく。殆どは壁にそうように置かれ、僕は頭を抱える。僕の生活の殆どは白い手に脅かされるという事だ。唯一の安全地帯の部屋の中央はぽっかりと穴が空いたように家具のない空間。
今のところ、そこだけが僕が白い手から勝ち取っている場所。白い手が届かない、勝ち取っているというにはあまりにも情けない理由だが、それでも僕の部屋で唯一僕だけの場所。引越し業者が一通り家具を運び込めば、次はいくつかのダンボールが運び込まれた。
お母さんがその箱を指差し、"ほら、駄々こねないで服とか持ち物を片付けてね"と言い残して引越し業者と共に出ていった。明後日には学校にも行かなければならないし、荷物を片付けないわけにはいかなかった。
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