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お母さんと引越し業者が部屋から出ていった後は再び僕と白い手だけが残らせた。やっぱり僕以外には見えていないらしく、誰も頼る事は出来なかった。
運び込まれたダンボールの一番上に手を伸ばす。辺りを警戒しながら開ければ、中には僕の衣服が入っていた。綺麗に畳まれた衣服をそのまま箪笥へと放り込む。部屋の中心の安全地帯から箪笥の中に服を放り込めば綺麗に畳まれていた服は無残な形で箪笥の中に収まった。
きっと、後でお母さんがぶつぶつ言いながら詰め直すだろう。そう思いながら、荷物の入ったダンボールを減らしていく。白い手を警戒するものの、特に何かしてくる事もなくただ部屋の扉でゆらゆら揺れている。僕はその時、はたりっと気づいた。
あの手が扉から生えている限り、僕の出入りが封じられている。服を箪笥に乱暴に投げ入れている僕の手が止まる。急いで片付けを終わらせて、あの手を移動させなければならない。
服が入っているダンボールがなくなれば、次は本や文房具が入っている箱だった。それも、素早く机の引き出しを開け安全地帯から投げ入れたり、本は白い手を見ながら本棚に本をねじ込んですませる。上下が逆だったり、急ぎすぎて本を本の間にねじ込んで折り曲がってしまったりしているが気にしない。
少しゲームをしているような感覚に似ている。片付けとしての精度は兎も角、みるみる減っていくダンボールに僕は得意気になっていた。
あっという間にダンボールは空になった。そこへ見計らったようにお母さんが入ってくる。空になって積み上がったダンボールにお母さんは目を丸くするが、閉まっていない箪笥やぼこぼこと飛び出た本へと視線を移せば呆れたように溜息をついた。
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