4. 再び

2/4
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/25ページ
 うろたえる父母にとどめの一撃。 「そんなに嫌いなら私に【ミナミ】なんて名前、付けないでよ! 【バカ子】にでもすれば良かったじゃない!」  パパの強烈な平手を喰らった私は、よろめいて玄関の扉にぶつかった。  ポスターケースがポーンと靴置き場の後ろに吹き飛んだ。  そのまま家を飛び出してしまった。  この駅に向かう間に、涙すら出なかった。 「お急ぎ下さい。17時10分発、桜ヶ丘行きの急行電車、あと5分で発車でぇ~す」  駅のホームを歩く小さな女の子が持つ、赤い風船を見ながら、私は思った。  ここまで徹底的に通じないのなら、もう諦めがついた。  あんな親に認められなくたって、一人で生きられる。  どうでもいいや…私は目を閉じた。 「まもなく桜ヶ丘行き、発車となりまぁ~す」  ベルの音。意識が戻る。  ゆっくりと目を開く。前髪の縦線が邪魔して、よく見えない。  指で掻き上げて確保した、視界の先に映ったのは、山猿の白と赤――  ショックだった。  俺はそれを知らなかった。  だから荷物を担いで実家の門扉を開けた時も、茶の間から見える庭を眺めた時も、全然気づかなかった。  母親が静かに伝えた「ガン」という言葉を聞いた時も、きちんと飲み込めていなかったと思う。     
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!