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うろたえる父母にとどめの一撃。
「そんなに嫌いなら私に【ミナミ】なんて名前、付けないでよ! 【バカ子】にでもすれば良かったじゃない!」
パパの強烈な平手を喰らった私は、よろめいて玄関の扉にぶつかった。
ポスターケースがポーンと靴置き場の後ろに吹き飛んだ。
そのまま家を飛び出してしまった。
この駅に向かう間に、涙すら出なかった。
「お急ぎ下さい。17時10分発、桜ヶ丘行きの急行電車、あと5分で発車でぇ~す」
駅のホームを歩く小さな女の子が持つ、赤い風船を見ながら、私は思った。
ここまで徹底的に通じないのなら、もう諦めがついた。
あんな親に認められなくたって、一人で生きられる。
どうでもいいや…私は目を閉じた。
「まもなく桜ヶ丘行き、発車となりまぁ~す」
ベルの音。意識が戻る。
ゆっくりと目を開く。前髪の縦線が邪魔して、よく見えない。
指で掻き上げて確保した、視界の先に映ったのは、山猿の白と赤――
ショックだった。
俺はそれを知らなかった。
だから荷物を担いで実家の門扉を開けた時も、茶の間から見える庭を眺めた時も、全然気づかなかった。
母親が静かに伝えた「ガン」という言葉を聞いた時も、きちんと飲み込めていなかったと思う。
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