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1. ミナミ
波…
ミナミ
ミ・ナ・ミ
ビクッとして起きた私は、ボサボサの前髪のすきまから、細い目を全開にして「ここ」を探していた。
かっこ悪いから、あわてて周りを見たりしない。ここがどこか解ってるし、少しだけ目をつむってただけ、のフリをする。
誰もいなくたって、周囲へのPRはいつも欠かさない。
「鹿沼ぁ~ 次わぁ~、六田に止まりまぁ~す」
電車の窓越しに、看板とかそんな物を探していたけれど、答えを先に言われてしまった。
「まだじゃん」
損した。びっくり損。私の人生何秒か縮まった。
その何秒かで、大切な何かを伝えられたかもしれないのに――なんて、くだらない妄想はいくらでも浮かぶ。
ドアが閉まるまでに、ずり落ちたお尻を引っ張りあげ、座席にセットした。ポスターケースを抱える右腕を肘掛けに乗せて、反対の方はバッグにしっかり巻きつける。
これでまた一眠りする体勢ができあがった。
目を閉じて頭を右に傾ける。おやすみなさいと言いかけたけれど、何かがひっかかった。
「何でビクッとしたんだろ?」
覚えていない。いや、少しだけ、私、名前を呼ばれたような気もするけど。
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