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――無論だった。
小さく喉を鳴らしてしまう自分が情けない。
前髪を撫でた右手は吸い寄せられるように、今度は彼女の唇へと向かっていた。
おっかなびっくりとしながらも、暁は幸の唇に触れた。かするか、かすらないか程度の微妙なタッチで。でも、それだけで十分だった。幸の唇は、信じられないくらいに柔らかかった。
顔についたチョコを舐めとられた時のことを思い出して、更に恥ずかしくなった。
「んん……」
幸はむず痒そうにしながら体を動かす。機関銃のような自分の鼓動がうるさいったらない。
「幸……」
いよいよ衝動が抑えきれなくなっていた。暁は頭が真っ白になりながら、幸の唇に顔を近づける。
ゆっくり、ゆっくりと二人の距離は狭まり――。
そして、幸の吐息が唇に触れた時だった。
「――あ」
突然に遠のいていく意識と、遠のいていく彼女との距離。
ばふ、と音を立てながら、暁の体は枕に引き寄せられた。
――ああ、そういえばそうだ。
暁は消え入りそうな意識の中で、納得しながらこう呟いた。
――夢って、いつも一番いいところで覚めちゃうんだよなぁ。
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