第十七章 夜は静かに嘘をつく 二

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 俺は溜息をつくと、酌を新悟に代って貰った。 「寒河江、桜本さんの方は順調なのかな。資料を俺にも送ってよ」  中村の件は、どうにかなったようなので、桜本に合流しよう。 「市来は裏表がないよな……私は、色々な男と寝てみて未来を見たけど、皆、嘘ばかりであったよ」  時に人は、嘘の自分をみせたがるらしい。弱気な男が、必死で強い男を演じてみせたりする。 「新悟は誰かを思って、誰かの代わりに彼女を抱いてきた人だよね。相手にはすごい裏切り行為だけど、そういう嘘を背負っているから、完璧な優しい彼氏でいられた」  新悟が、彼女の嘘にも、彼女の我儘にも寛容であったのは、裏を返すとそれ以上の事を自分がしているせいだった。 「一ノ瀬さんは、結婚詐欺師で、嘘だから甘い夢を見せてくれる。天国を嘘で作れる人で、私は一ノ瀬さんが天才級だと思う」  一ノ瀬は、詐欺師と言われても、優しく微笑んでいた。 「夜は静かで、嘘をつくにはもってこいの時間だ。囁きでも聞こえるからな。結果、自分の声だけ聴いて、優しい夢の中にいるような、ふわふわとした世界をつくる」  一ノ瀬は、結果、結婚詐欺として相手を傷つけるが、夢は見せるという。 「新悟も、女性に夢を見させるとい事を知った方がいい。見た目がいいから相手に不自由しないというのは、若い時だけだからな」  中村は、新悟にきつい事を言う。新悟は、見た目だけではなく、頭もいいのだが、言い返せないでいた。新悟は真面目で、相手に嘘を付く事も、夢見心地にさせる事も不得手であった。 「中村さん……」 「そうだよね。私の占いも、相手を増やせるのは若い頃だけだと思ってね、もう終わりが近いと、頑張ってはいるのだけどね……一日、何人とも寝られないからね……」  実際、寝る回数は、若い頃よりも減ってきているらしい。 「何か別の方法はないものですかね……」  寒河江を呼ぼうとすると、何かのファイルが到着していた。桜本の発掘の様子なのかと、ファイルを開くと、動画が流れ出していた。 「寒河江、中村さんが未来を知るのに、寝る以外の方法はないの?……これ何のファイル?」  動画はどこかの部屋で、ベッドが見えているので、嫌な予感がして眉を寄せてしまった。すると、中村が俺の携帯電話を奪って、動画の続きを見ていた。 「……市来、エロビデオか?しかし、これはないだろ。ゴリラの交尾は、山でしてくれ……」
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