第十八章 夜は静かに嘘をつく 三

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 死保は、どうしてこうも、人の考えを読む人が増えているのだろう。だから、久住や中村のように、読むプロが必要なのかもしれない。人を読むよりも、自分の能力に特化したほうがいい。 「兄さんは読み易いですけど。夜は姿が見えないから……兄さんが、俺を好きだと言っても、嘘かもしれないと疑いますよ……兄さん……嘘は表情に見えますから」 「疑っていたの?」  新悟が微妙に首を振っていた。でも、きっと、信じてはいないのだろう。俺も、まだ新悟と兄弟という事を、越えられないでいる。 「俺は嫌いな奴と寝られる程、器用だったか?」 「それは無いですけどね、兄さんは、好きと嫌いが顔に出ますから」  言い合っていると、松下のマンションの前に来ていたので、新悟に荷物を持たせてから車を駐車場に移動する。マンションにも駐車業がある事は知っているが、月極の駐車場なので借りる気にはならない。  車をコインパーキングに止めると、俺は寒河江に電話を掛けてみた。 「寒河江、中村さんは死保を了承してくれたよ」 『一ノ瀬さんから報告を受けていますよ。市来の料理が条件だってね……』  寒河江に桜本の状況を聞くと、場所の特定に手間取り、久住を呼んでいるという。だが、久住は木積の家に籠ってしまって、出てくる気配がない。 「地図を送っておいてよ。場所の特定はできないかもしれないけどさ」 『市来も地形に強いからね……案外、見つけられるかもね』  久住に過去を見て貰う予定であるが、携帯電話にも出ない状態が続いていた。 「寒河江、衛星写真と立体地図もお願い」  衛星写真は建物などが邪魔をして、本当の地形が見えない。でも、ただの地図は平面過ぎて予測ができない。地図を立体で記憶してから、古墳の図面を見てみた。 「寒河江、ここだよ。整地されているかもしれないけど、過去の地図と比べても、ここは他の土地と違う何かがある」  桜本に根拠を聞かれるかもしれないが、古墳だった土地は、畑や田んぼには向いていない。小山として残っている可能性が高いのだ。周囲が畑であっても、何らかの名目でその場所だけ残されていたりする。もしかしたら、異質な土地なのかもしれない。 『桜本さんに知らせておくよ。市来、ついでに、次の場所も特定しておいてよ』  寒河江は、俺の使い方を覚えたようで、様々な種類の地図と、過去のデータも揃えていた。
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