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俺は、マンションの下にあった植木の横で、地図を見つめてしまった。
寒河江もよく揃えたもので、百年近く前の地図からあった。その地図を頭の中で並べて、重ねてゆく。
「ここは住宅地の横に神社があるでしょ。ここは、昔から位置が変わっていないでしょ。ここにある木の樹齢は、五百年だよ。ここは、五百年前から聖地で、きっと聖地になった意味がある」
何の意味かは分からないが、その土地には何かある。それが、古墳である可能性も捨てきれない。
「そもそも、何故、古墳なのだろうね」
妙な形をした墓は、何の意味があったのだろう。
『権力者の考える事は分からないよ』
植木の横で話し込んでしまったので、新悟が心配そうに様子を見に来てしまった。
「兄さん、そんな場所で何をしているのですか?」
俺は慌ててマンションの中に入ると、エレベーターの前に立った。
「寒河江と仕事の話しをしていたよ。桜本さんが、古墳の位置の特定で手間取っていると聞いてさ」
場所の特定が出来たのならば、今度は久住を呼ぶ方法を考えなくてはいけない。
俺は考え事をしながら、エレベーターに乗り込むと、そのまま正面の鏡の前で唸ってしまった。
「鏡か……」
目に映る物は、水面に似ている。鏡は、月に似ている。
「鏡は月だった。月が鏡だと、どうして知っていたのだろう……墓に鏡を埋めた……月に帰る物語が心に染みる……」
何故、月に帰りたいと思うのだろう。
「月に帰りたいというのは、兄さんだけですよ……」
又、新悟に考えを読まれてしまったようだ。しかし、新悟は俺が考えている事を口に出して言っていると指摘していた。
松下の家に入ると、材料を確認して料理を始める。
「水餃子ね。それと春巻き?」
似た組み合わせだと唸っていると、新悟が作り始めていた。
「月があっても、人は夜に眠る……」
電気のない過去では、光というのがとても重要であっただろう。でも眠る時間でもある。
「兄さん、位置の特定ができたのでしょう。ならば、後は確認でいいでしょう」
現代では、どれだけ権力を持っていても、あんなに大きな墓を作る奴はいない。でも、大きな物を作りたがる金持ちは多い。
「そうかな……何か引っ掛かる」
でも今は、料理を作っておこう。松下に、夕食のメニューと、新悟がいる事を連絡すると、楽しみだと返事が返ってきていた。
「久住さんに読んで貰いたいけどさ。依頼が出来ない」
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