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「まあ、ゆっくり口説きましょう……」
人の心は、すぐに動かないらしい。
料理が出来上がる頃に、松下が花を買って帰ってきた。
「ただいま、市来君。新悟君、久し振りだね!」
松下は、赤い薔薇の花と、大量の葉を購入してきた。それをどうするのかと見ていると、葉と薔薇を編みこんで飾っていた。松下が花を飾るのにも驚いたが、編み込むとも思わなかった。
「松下さん、凄いですね」
「……前に、野菜に薔薇を差して飾ったら、彼女に怒られたっけな……と思って、葉も購入してきたよ」
野菜に差したら、俺も怒る。俺は野菜に被害が出たら、花を捨てるかもしれない。
松下に中村の説明をして、死保の協力者になってくれた旨を説明すると、中村に会いたいと言っていた。
「……会いたいですか?俺、中村さんが苦手みたいで……」
俺は、特定の人を嫌うということはないが、中村はどうも苦手であった。あのパワーのまま押し倒されると、追い詰められたウサギのような気分になる。
それと、俺が死保に来た当初にいた女子高生も中村と、同じ名字なので、思い出すのかもしれない。
「未来が分かるならば、株には有効だよ」
確かに、株には有効で、松下の参考になる。考えてみると、久住の過去情報も、松下には有効になるだろう。
「落ち着いたら紹介します」
俺が食事をテーブルに並べると、松下は電気を消して、花をライトアップさせていた。
「夜に花と飛行機は、とても綺麗だよね」
俺は、昼間の飛行機の方が好きだが、楽しそうな松下を見ると、とても言い出せない。
ライトアップされた花を見ながら、男三人で食事というのも味気ない。でも、松下は両手に花だと笑っていた。
「市来君にも驚いたけど、新悟君も綺麗な姿だよね。新悟君は、かっこいいというのかな……」
暗いので、せっかく透けるように配置した海老が、無意味になってしまった。俺が、水餃子を見つめていると、新悟が春巻きを見つめていた。
「新悟君、今日は泊まってゆくのでしょ?」
「はい、兄さんの部屋を使用します。兄さんは、松下さんの部屋に泊めて貰ってください」
いつも、松下の部屋に移動しているのだとも、言い難い。
「明日は桜本さんの現場に合流します。もしかしたら、向こうで数日過ごすかもしれません」
「そんな……もう少し待ってくれたら、私も行くよ……」
松下が、ポトリと水餃子を落としても気付かず、嘆いていた。
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