第十八章 夜は静かに嘘をつく 三

7/9
前へ
/206ページ
次へ
 木積が仕事をしていれば、久住が自由になるだろう。程々の関係にしておかないと、二人共、社会人として失格になってしまう。  食事が終わると、松下は風呂のスイッチを入れていた。 「新悟、風呂に入ってしまってよ。俺も片付けが終わったら入るからさ。そうしたら、ミーティングルームで、久住さんの対策を考えるか……」  久住をスカウトできなければ、メンバーが消滅してしまうのだろうか。でも、無理という場合もあるだろう。 「じゃ、先に入ります」  新悟の着替えを考えていなかったので、俺は慌てて、使っていない下着を揃えた。すると、新悟はサイズを確認して、松下にお願いしていた。 「兄さんのでは、小さいです」 「失礼だな……でも、死保から出る度に購入しなくてはいけないから、不便だよね……」  俺は、衣服まで松下が購入していて、死保に戻っても消えるということはない。でも、松下に金を渡せないので困っている。せめて、食事代金は俺が出そうと思っているのだが、松下の出費の比ではない。  新悟が風呂に入ると、キッチンに松下がやってきて、俺を後ろから抱き締めていた。 「……ただいまのキスがまだだったからね」  松下がキスしてくると、服に手を入れてきた。松下の手が冷たくて、飛び上がりそうになりながら、服から取り出そうと必死になる。  そのままジタバタしていると、松下が押さえながらも笑っていた。 「この必死な姿が、ハムスターと言われれば、そんな感じだね……」  ハムスターとは、どこで知ったのだろう。寒河江しかいないかと、携帯電話を睨んでみたが、松下はもう一度キスしてきた。 「……嘘でもいいから、私だけのものだと言って欲しい……」  そこで、上手に嘘がつけたらいいのに、見つめられると目を逸らしてしまう。すると、松下が悲しそうに見ていた。  松下に悲しそうな顔をさせると、俺の心が痛くなる。俺は、松下の首に手を回し、自分から唇を押し当てる。すると、松下も背に手を回して、きつく抱き込んできた。 「嘘なんて、松下さんの前ではつきません……大好き……愛というのは、俺には分からなくて……どう言ったらいいのか分かりませんが、失いたくない……」  松下は、俺の頭を撫ぜて、頬を寄せていた。 「……困らせてゴメン。愛しているよ、市来君……」  暫し抱き合っていると、風呂場で物音がしたので、そっと離れる。
/206ページ

最初のコメントを投稿しよう!

38人が本棚に入れています
本棚に追加