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こんな時は、自分が死んでしまっているのが、本当に悔やまれる。生きて出会えるのならば、松下と会って、抱き着いて離れない。
「風呂、入ってきます……」
俺は、そろそろ本格的に、自分の死と向き合わなくてはいけないのかもしれない。
風呂につかりながら、俺が死保に来た日、何があったのか反芻してみた。
「兄さん、松下さんが待っていますから、長湯はダメですよ」
新悟に声を掛けられて我に返ると、急いで風呂を出た。
「風呂出ました!」
俺は、パジャマを着ながら、ミーティングルームに駆け込む。すると、後ろで新悟がモップを持って、滴った水を拭いていた。
「ちゃんと、拭いて下さい。兄さん!水が落ちています!」
髪から滴った水が、廊下に水溜まりになっていた。新悟はモップで、俺が歩いてきた跡を消していた。
「新悟。俺が死んだ日、どうして、俺の会社に来ると言った?」
どうして、俺と一緒に、新悟も死保に来てしまったのだ。最初の疑問は、今も引き摺っている。
「夕食を差し入れしようとしたのですよ。それで、兄さんの仕事が終わるのを待って、始発で帰ろうと思っていました」
俺は、確かに電話で新悟が来ると聞いていた。でも、新悟には会っていない。
「死保に来て少し分かったのは、兄さんは菩薩で、生きている時も、狙われていたということですよ」
俺は無頓着で、全く気付いていなかったが、新悟は俺の周囲に不穏な動きがあると感じていた。俺が歩いていた後に、車が公園に突っ込んでいたり、電車に乗れば事故が相次いだ。個人の仕業ではないと感じ、新悟は俺を会社で一人にさせたくなかったらしい。
「……兄さんを欲しがって利用しようとする側と、殺そうとする側がいたのですよ」
死保は、だから理由をつけて、俺を回収したのだという。
「殺そうとする側は、全てに死を与え、成仏の道を不必要としています。兄さんが、救う魂が許せないのですよ」
何をしていても、菩薩に出合えれば救われるというのは、世界の秩序を乱していると感じるらしい。でも、俺は高原を救えなかったように、世界に理不尽を感じている。
「……兄さんを殺しても、死保が護ると分かってきたのか、閉じ込めて封印しようとかの動きもありますよ。だから、一人にならないで……」
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