第十九章 夜は静かに嘘をつく 四

5/9
前へ
/206ページ
次へ
「死保というのは……記憶を消す事が出来るでしょう。でも、完全に消せるわけではない。誰かが、記憶を戻して、死保の情報を集めているのです……」  俺と関わった人間や、記憶を消した人の情報などが取引されているらしい。 「それは、死保を見張ればいいので、スパイかは分かりませんよ」  松下は俺と住んでいたりするので、記憶を蘇らせた人からの問い合わせなどを受けているらしい。そこで、松下も何が起こっているのか調べていた。 「まあ、相葉君と西片さんが、飲みに来いと言っていましたけどね」  飲みに行くのはいいが、又、記憶を消さなくてはいけなくなるのではないのか。 「市来君、心配するのもいけませんか。凄く、 怒っているように見えますけど……」 「仲間を疑いたくないだけです」  松下がこのまま眠るというので、俺もそのまま寝転がった。死保のメンバーは、仕事が達成できなければ、一緒に消滅してしまうという連帯責任を課せられている。でも、それ以上に、家族のような存在であった。  家族に、裏切り者がいるとは考えたくないだろう。  松下の手がそっと伸びてくると、俺の頬に触れていた。そして、がっしりと固定すると、キスをしてくる。俺は、おやすみのキスにしては長すぎると、松下を蹴飛ばしてしまった。 「市来君、暴力は反対ですよ」 「……松下さん、俺の許可を取ってから、キスしてください」  蹴飛ばされた松下は、又、這い上がって来ると、俺を抱き込んでいた。 「……許可してください」 「不可です」  それに、俺はもう眠い。半分、眠っていると、松下が溜息をついて諦めた。 「まあ、自分から一緒に眠るだけでも、大きな一歩です」  松下は、俺の頭にキスをすると目を閉じていた。俺は、安心したのか、すぐに爆睡してしまった。  翌日、目が覚めると、松下の胸を枕にして眠っていた。どうも俺は、この暖かさと固さが、枕に丁度いいらしい。でも、高さが合わなかったのか、枕を腹に敷いて調節していた。眠りながらやった事なので許して欲しいが、松下が苦しそうに眠っていた。  俺は起き上がるとキッチンに行き、朝食のメニューを考えてしまった。昨日は、差し入れもあるので、肉饅頭を造ろうと思っていたが、どうも気分がのらない。 「兄さん。花巻蒸しパンと、油淋鶏にしておきましょうか……それと、餃子でいいでしょう」  新悟も起きてきて、料理を始めていた。
/206ページ

最初のコメントを投稿しよう!

38人が本棚に入れています
本棚に追加