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Ⅲ 魔女の夢と図書館の竜
庭の低木の影にしゃがみ込んでいたところに声を掛けられたのだ。膝に埋めた顔を上げれば夕暮れどきの薄暗がりがそこここにあって、木の枝を縫って差し込む橙色の光を浴びたその人の髪が暗く色付いていた。彼の髪はもっときれいな色だったはずだ。朝陽に照らされると波打ち際の海のような美しさを持っていた。それがわたしの精一杯の賛辞で、彼がむず痒い顔をしていたのを覚えている。
急に水面に生まれた泡のように、これは夢だ、と自覚する。
彼の名前が思い出せない。
細々とではあったが、母と父がずっと頼りにしていた人。
少しの間ではあるが、わたしと兄の後見人だと言った。
わたしが直接会って話したのは片手で足りる回数で、確かこれが最後だった。兄とはその後も幾度か会っていたと思う。両親が亡くなってすぐのこと。葬儀だとかのわたしたちだけでは難しい色々な手続きをしてくれた。
「こんなとこで何してんだ。寒いだろ」
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