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「お待たせしました」
「あ、着替えたんだね。可愛い」
リウはこちらを見るなりそんなことを言うものだからたじろいだ。ただの無地のワンピースだ。彼は玄関の扉に背を凭れて抑えている。先にミユが扉をくぐり、それにわたしが続いた。
クリーム色の壁の部屋の真ん中には楕円のテーブルが置かれ、扉の向かいにある窓の外は、霧が濃くて様子がわからなかった。右手にあるガラス張りの扉の向こうはもしかしたら庭に続いているのかもしれないけれど、やはり霧に満ちているので詳細がわからない。部屋の意匠はこれといって凝ったところはないように見えた。ところどころに小振りな花が飾られている。
自宅から繋げたという場所は、また別の誰かの家に繋がっていた。
「私の家だ。リウ」
最後に扉をくぐった弟に声を掛ける。
「準備は私とチェルニーでするから、大人しくしているように」
「はいはい」
そのままミユは左手にあった別の扉から出て行った。リウと二人きりされても大いに困るのだが。
「さ、こっちに座って。特に席順もないし、ここは宗教もないから畏まらなくていいよ」
入ってきた扉側の椅子を引いて再度手招きされたので、言われるまま座った。家具はいずれも木製で、テーブルの中央には大振りの薔薇がドーム状になるように花瓶に活けてある。
リウはわたしの向かいに座ると、肘を付いて手を組み合わせた。彼は上着の袖を通さず肩に掛けていて、シャツのボタンも一つ開けているだけだが、ミユと並ぶとだらしない印象になる。ミユはきっちり着込むのと立ち振る舞いに真面目さが滲むようだった。
「さて。あんまり動じてないけど大丈夫? 君は魔女だと思うから、ここの空気は毒にはならないと思うけど」
「毒?」
「そう。ツァウベルに耐性のない人は息が続かないんだよ。だからこの空間には魔法使いや魔女、魔術師くらいしかいない。植物は育つし動物も少しはいるけどね。猫とか」
「それじゃあどうやって生活するんですか」
「畏まらなくていいよー僕偉い人じゃないしー。嫌なら無理しなくていいけど」
彼はにこにこと笑いながら話を続ける。
「一応ね、物好きな人が食べ物を売ったり生活用品を売ったりしてるんだよ。だから何年も掛けてここも町みたいにはなっているんだ。これから先も変わっていくと思う」
「その人たちも魔法使いとか、なの?」
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