Ⅰ 魔女と魔術師

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 二人が動揺している間に足音が近づいてきて、チェルニーが部屋に入る際に両手が塞がっていたため開けたままにしていた入り口から、ワゴンに人数分の料理や小さな鍋を載せてミユが姿を現した。 「ミユ、彼女、僕等の違いがわからないって」 「ミユさんたち双子の見分け方ではなくて、わたしたち魔術師、魔女、魔法使いの違いについてです。学校で教えてもらったままで良いのでしょうか」  チェルニーの補足に彼等にも学ぶ場所があるのかと思いつつ、わたしもミユの方を見た。年の差がある兄弟なのか判じかねていたけれど双子なのか。三人分の視線を受けてもミユは落ち着いたまま、 「燈夜はそこまで話していないと言っていたからな。実感しなければわからない点でもあるし……チェルニーは何を習ったって?」 「最初の講義で、わたしたちはツァウベルによって選別されて、それによって魔法使い、魔女、または魔術師となる。つまりツァウベルは魔法そのものでありながら、わたしたちを各々特性を持つように仕向ける因子として働く、というように。わたしはちょっと言い回しがわかりづらかったんですけれど……」 「そういう言い方もある。まずは食事をしよう。腹が減った」  そうでした、とチェルニーはすぐさま切り替えてそれぞれに皿を配りだす。ようやく手を放してもらえてほっとして、立っているついでに手伝おうとワゴンに近づいた。ミユにありがとうと告げられてから料理の乗った皿を渡される。香草の香りが引き立つ、魚料理だった。スープやサラダを見ても馴染みのある食材が使われているように見えるので、おそらくそれ程食生活は変わらないのだろう。どれも家庭料理のようで美味しそうだ。 「今日はチェルニーちゃんが一人で?」 「そうですよー。たまたまいっぱい作っていたから良かったものの、人数が増える時は教えてくれないと困るんですからね」  わざと口を尖らせてから、リウが謝るとチェルニーはふふっと表情を崩す。彼はお詫びに飲み物を、とそれぞれのグラスへピッチャーから小さな緑の実が入った水を注いだ。 「さて、食べようか」  わたしの左にチェルニーが着席し、彼女の向かいにミユが座った。彼の声が食事を始める合図になる。本当に宗教も何もないようだった。とても……とても普通の食事風景だ。そして彼等が親密な関係であるのがありありとわかるために、ちくりと自分勝手な疎外感が生まれる。
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