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「じゃあ持ってみて」
「え?」
「大丈夫、君は扱えるよ。リーヴェルの力を強く受け継いでいるから」
兄が言うのを信じて、おそるおそる手を伸ばした。両手で掴んで壁から外すと、ふわっと風が生まれて部屋の中に広がった。杖の先に付いた石が、ほのかに光を発している。そこから出たいのだ、という意識が流れ込んでくる。
「え、これ、兄さん、」
風は止まずに徐々に強くなり、カーテンの端が煽られて音を鳴らした。
「ゆっくりでいい。本来の形になるように、ツァウベルを促して」
ツァウベルは魔法そのもの、と昔教えてもらった言葉が頭を過る。
「本来の形に――」
ひときわ強く杖の先が光ると、瞬きの間に、先程まではなかった刃が出現していた。大きくて恐ろしいかと思いきや、身のほとんどが色の付いた石で装飾されていて、とても実用的には見えない鎌。なぜか重みも感じない。
「それがうちで一番の魔法使い――魔女に与えられる杖だよ。魔法を使うときはそうして使うんだ」
さて、と兄は伸びをする。
「とりあえず杖はそれ。ツァウベルの使い方は追い追い身に着けよう。もうすぐ春休みだったね」
確かにそうだけれど、まずこの杖はどうしたら良いのか教えてほしい。重くはないけれど、持っていても邪魔になる。
「それから僕の仕事の話もしよう」
兄はちょっと考える素振りをしてからそう言った。そういえば兄は、自分がどんな仕事をしているのか、今まで明かしてくれなかった。ようやく話してくれるからには、おそらくそれも魔法に関係したものなのだろうと思う。実際聞いてみてその通りだったのだが。
部屋を出ようとする兄に慌てて杖をどうしたら良いのか聞いて、自分で考えてごらんと悪戯っ子の顔で言われた。
今では簡単に杖を出したり消したりできるけれど、あの時はなかなか苦労したのだ。
わたしの魔女としての人生は、そうやって始まった。
そして今年の春。
一週間前に消えた兄を訪ねて、魔術師の青年が現れた。
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