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鼻で笑って口をにやりと歪めた。親の野心は強いが、まだそれに伴う実力が足りない。なので一度噂に上ってもああそうで流されて終わっていた。それより少しずつ勘付いた人間が、ラフト家ではなくシェオ・ラフト自身を探していることをまだ彼は知らない。
「で? なんでまた破棄したんだよあいつとの婚約。お互い了承済みだったくせに」
そう再度訊ねると、彼女は両手を頬に添え、ふふっと笑いを漏らす。
「あのね、好きな人ができたの」
実に愛らしく小首を傾げて見せた。霧が漂う二人だけの空間に、しばららく無言の時が流れる。
「…………は?」
シェオはどうにか声を絞り出した。とうの昔に封印したはずの嫉妬心が蓋を開けようとしているのを感じる。落ち着くんだ、と自分に言い聞かせる。
「ほら、この間また新しいところを見つけたって言ったでしょう? あそこはあんまりツァウベルが感じられないし、それほど重要な場所とは思えなかったんだけどね、そこで出会ってしまったのよ」
薄っすら頬を染めて、リーヴェルが恋する少女そのままの体で、それはそれは嬉しそうに発する言葉が、シェオの心に確実に刺さって蓋に穴を開けていく。
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