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「あの人のことを好きになって、ツァウベルに対してわくわくするのと同じくらいどきどきするのよ。人間って不思議ねえ」
霧が晴れそうなくらい輝かしい笑顔に、シェオは居ても立っても居られなくなる。とにかくどこかに引き籠りたい。その一心で、
「その色惚けた頭冷やしてろ」
そう吐き捨てて、二人が立っていた場所から一番近い建物の扉を開くと、そのままいなくなってしまった。シェオはエリットからこの方法を――既知の扉と扉を繋いで場所の行き来ができる方法を身に着けた。
初めて立った空間に置いてきぼりにされて、その瞬間は驚いてしまったけれど、リーヴェルはすぐに空間を探る方に頭を切り替えた。
彼女は彼と違って、既知の場所だろうと未知の場所だろうと、自分の思うままに空間の移動が可能だった。既知の場所を思い浮かべるか、もしくはそこにいる人物に焦点を合わせて飛べばいい。この空間のどこかで迷ったところで、シェオの姿を思い浮かべるなりして知っている場所や人物のところへ行くことができるのだ。だからすぐにシェオを追いかけようとは思わず、特に慌てることもなかった。
それにシェオが突然こうしてリーヴェルに意地悪をするのも今までに何度かあったので、放っておいても問題ないだろうという結論に至った。この点については彼の自業自得である。
「さて」
声に出して区切りを付ける。
くるりと周囲を見回して、目に付いたツァウベルを逃がさないように、リーヴェルは足を踏み出す。ツァウベル自体は直接目で見れるものではなかったけれど、そこにある、と場所を正確に定めることができた。
その勘で捉えたのはリーヴェルが知らないツァウベルで、知らない、というのは、彼女が今まで触れてきた中でも随分異質な感じがしたからだ。念のため杖を出して、すぐに振るえるようにしておく。自分の身長より長さのあるそれを最近になってようやく持ち始めたため、まだ身体の一部のように扱うには遠かった。
ざらりとやすりで撫でられるような違和感に近づいて、直接手を伸ばす。平気でそういうことをするので誰かと一緒だとすぐに怒られるのだが、今は彼女一人。
「触らない方が身のためよ」
すぐそばで聞こえた。
リーヴェルはそれを無視してツァウベルに触れる。
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