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思わず口から出てしまう。ただでさえ広い室内で一人呟いてみても、虚しさが募るだけだ。手にしている鞄の持ち手に力が入った。
とにかく兄がいない間、彼が心配しないようにしっかりしなくてはと思う。気持ちを切り替えようと、冷蔵庫にあった食材を思い出そうとした。
――トン、
厚みのある木材の扉を、一度ノックする音が耳に入った。玄関ホールから台所へ続く廊下に足を踏み入れた時だ。
―――トン、トントン、
続けて音がして、振り返ってみてふと気づく。
この家はぐるりを柵で巡らせて、門扉は鍵を持つ人間でしか開けられないようになっている。だから自分が門を閉じてきた今、直接玄関の扉が叩かれるなんてあるわけがない。そもそも兄が屋敷全体に仕掛けをしているので、無理やり柵を越えてきたとしても、その時点で中にいる人間に異変を伝える仕組みになっているのだ。
ぞわ、と恐怖が背筋を伝った。
柵を越えられてここまでこられたということは、木の扉一枚隔てた向こうにいるのは、普通の人間ではないのだ。
どうしよう。自分以外誰もいないのに。
「にいさん、」
頼れる人も、今はいないのに。
ガチャリ、
重たい音が玄関に響く。閉めたはずの鍵が簡単に開いた。
咄嗟に逃げなければと、身体の向きを変えた直後だった。
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