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戸惑うサリタを逃がさないために今度は腕を掴んでみたけれど、これではリーヴェル自身が消耗してしまう。どうしようかと考えている間に、サリタは自分の身を引き剥がそうと躍起になっていた。やっぱり悪いものじゃないわねえとリーヴェルは嬉しくなった。
「いいことを思いついたわ」
「なに?」
自分のツァウベルが吸い取られているというのに暢気に言い出すので、もはやサリタが気後れしている。
「わたしの杖にね、魔鉱石が付いているのよ。そっちに入ってみない?」
魔鉱石というのは、ツァウベルを宿らせた石のことだ。もともとは普通の石なので、そのまま石とか、あるいは多く透明な石を用いるので水晶と呼ばれることが多い。
「精霊じゃあるまいし」
まれに精霊が宿る石も存在して、そちらは精霊石と言われている。ツァウベルのことは知らなくとも精霊の存在は知っているのか、とリーヴェルは頭の中に書き留めた。
「でもサリタはわたしのツァウベルを好んでいるみたいだし、やってみてもいいんじゃない?」
「あなたが腕を離せば済む話でしょう!」
「それでサリタがいなくなったら困るわあ」
「わたしは困らない」
「そう? 何か用があるから声を掛けようとしたんじゃないの?」
「それは……」
サリタが言葉の続きを言い淀む間に、リーヴェルは再度杖を取り出す。彼女の杖は棒状の半ばからてっぺんに向けて細かい水晶がいくつも嵌め込まれていて、頂点に荒く削り出した形の整わない大きな水晶が取り付けられていた。いずれも透明で、一番上にある石だけ身の内側に緑色の光を閉じ込めている。
輝く杖先を見つめながら、サリタは溜息をつく。
「……やってみてもいいけれど、たぶんそれじゃあいくらももたないわ」
それにリーヴェルは笑みを深くして、
「充分でしょう」
リーヴェルは杖をサリタに向ける。サリタを縁取っている白い光がぽつぽつと水晶に率い寄せられていく。
「話をするだけなら、こんなことしなくていいでしょう?」
「ええもちろん。でもサリタ、あなたそれで次にわたしがここを訪れたとき、会ってくれるかしら」
サリタはそれに答えない。ツァウベルのことはわからなくても、自分が他者に悪い影響を与えるとわかっていて、わざわざ姿を現すような性格でないことは明らかだった。
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