3人が本棚に入れています
本棚に追加
ぶっきらぼうな口調だったけれど、不器用ながらもわたしたちを気遣っていたのがよくわかったので嫌いじゃなかった。むしろわたしも兄もとても好いていて、ほんの短い間でもどうにか彼に構ってほしくて、こちらからは色々話し掛けていたと思う。そうするとどんどん彼の顔は引きつっていって、両親との用事が済むとすぐに姿を消していた。目を離したほんの一瞬でいつもいつもいなくなっていた。
だからだろうか。彼が珍しくいつもより近くにいて目線を合わせてきたので、すかさず屈んだ身体に抱き着いた。勢いで彼はふらついたけれどどうにか踏み止まって、突然のことに身体が強張ったのがわたしにも伝わった。その瞬間、嫌われる、と冷や水を浴びたように気持ちが竦んで、慌てて首に回した腕を解こうとした。
「……ごめんな、」
と、いかにも慣れない手付きで頭を撫でられる。
「俺ばっかり生き残って」
どういう意味かわからなかった。わからなかったけれど、彼が拒まなかったことに安堵して、そうするとじわじわと侵食してきた涙が堰を切って溢れ出した。
それからのことはあまり覚えていない。泣き疲れたわたしを兄に預けて、疲労で瞼が今にも閉じようとしているわたしに何か言ってくれたと思う。別れの際に彼の声を聞いたことだけが記憶に残っている。
夢の中で意識が遠退く感覚。
目を覚まそうとしている。
はっとして、あれは魔法を掛けられたのだと、リウがわたしを眠らせたときの感覚に似ていて――
最初のコメントを投稿しよう!