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「ごきげんよう、ランヴァルの子」
耳朶に掛かった息に仰け反った。廊下の壁に背中をぶつけたのが痛い。目の前には自分とほぼ同じくらいの目線の少女がいて、無表情の視線とぶつかる。もう日がほとんど落ちているため暗い場所で、淡く色付く髪の色がはっきりしないその人物は、いつからそこにいたのだろうか。瞬間的に誰かに似ていると感じる。
「あなたにお願いしたいことがあるの。もう一人の子ではできないことだから」
「もう一人……って、」
兄さんのこと? と尋ねようとした時だ。
勢いよく開いた扉が壁に叩き付けられる音がして、その方向から何かが飛んできた。小さくて光るもののまとまり。それらは目の前の少女の周りで青い光を大きくして、一瞬でバチッと弾けた。眩しくて腕を翳して見やると、彼女は眉を顰めただけだった。
「わたしにしたらみんな小さな子たちだけれど、遊んであげる暇はないの」
煩わしそうに手で光を追い払う仕草をすると、ぼたぼたとそれらが落ちた。色のない石に見えるけれど、なんなのか。
「遊ぶつもりはないんだけどさ、他のみんなは君と話す気がないみたいで」
その人はわたしを後ろに庇うように姿を現した。束ねた髪が背中で揺れている。
「怪我はさせてないでしょ? 僕は手荒なことが苦手だし」
「あなたは……ブルクの子ね」
「そう。名前はリウって言うんだ、初めまして。君はサリタで合ってる?」
「……エリットそっくりだわ」
声に不愉快だという気持ちが滲んでいた。黙って成り行きを見守りながら、何かしなければと焦りが生まれる。片方におそらく守られてはいるけれど、どちらも無断で家に入り込んできたのには変わりないのだ……鞄でも振り回してしまおうか。
「そーんな何代も前のじいさんの名前出されてもなー。僕の質問には答えてくれないしさ」
ずっと握ったままの彼の右手に光るものが見えた。
「あなたと話してもしょうがないの」
「そう言わないで。聞きたいことは二つ。君の目的とトーヤの居場所だよ」
「……兄さんのこと知ってるの?」
唐突に兄の名前が出てきて、口を挟んでしまった。
「ねえ、なんなの、」
兄さんのことを知っているならわたしだって聞きたかった。
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