Ⅰ 魔女と魔術師

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Ⅰ 魔女と魔術師

 家の中に入ってすぐ、腰まで届く黒髪を桜色に変える。一年経ってこの色にも慣れたので、今は気分によって魔法をかけたり解いたりだ。玄関扉の上には幾何学模様のステンドグラスが嵌め込まれて、夕日によって仄明るく色付いた影が床に落ちていた。  今日も一日、自分は恙無く平穏に過ごしていた。学校へ行って、帰宅して、今から夕食を作る……けれどそこに、兄がいない。  今日で一週間になるけれど、何も連絡がないままだった。仕事に出掛けてそれっきりだ。家を空ける時はまずその日の内に一通、便箋に短くこちらを心配する旨を書き付けて送ってくる人なので、それがない時点で違和感があった。両親が数年前に他界しているので、二人で暮らすには広すぎる家の防犯や、妹を一人にすることに対して人一倍心配するのが常である。どうにもおかしい。誰かに相談したかったが、身内が魔法使いである、その関係の仕事に出て行ったきり帰ってこない、などといったいどうやって打ち明けたら良いのだろうか。あいにく自分と兄以外の魔法使いや魔女を知らなかった。 「……本当に、どうしたのかしら」     
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