3人が本棚に入れています
本棚に追加
それから、少しだけ時間が経って。
「あっ! プレゼントだー!」
乱暴に箱が持ち上げられ、ビリビリと紙の破ける音とともに、視界に光が差した。
眼前には──そう、ぼくが願ったあの子がいたのだ。
もしかして、ぼくをもらってくれたのは、この子なのか。
「あああー! ママっ、このこっ、あのときの!」
「良かったわね。サンタさんにきちんとお礼を言うのよ」
「サンタさん、ありがとう!」
「後でお礼のお手紙も書いてあげると、きっとサンタさんも喜ぶわ」
「うん、わかったー!」
母親と女の子の微笑ましい会話を聴いて、あの男の人は父親だったのか、とぼくは今更ながらに察した。
この場にはいないようだけれど、こんなに喜んでいる娘の姿を見られたら、あの人もきっと嬉しいだろう。
「うちにきてくれて、ありがとう! ずっとあなたがほしかったの!」
そして、このぼくだって、あの人に負けないくらい嬉しさで胸がいっぱいで、中身が溢れそうだ。
人に命を吹き込まれたものとして、こんなに幸せな言葉が他にあるだろうか。
「なまえ、なににしようね? うーん……」
ぼくを喜んでもらってくれただけでも十分嬉しいのに、なんと名前を付けてくれるという。
ひょっとして、ぼくは世界一幸せな作りものなんじゃないか?
ぼくが恍惚さえ抱いていたころ、女の子はうんうんとしばらく唸った後、ハッと目を見開いた。
「……そうだ! わたしが『あおい』だから、『あお』くんはどう?」
「あら、いいんじゃない。姉弟みたいで」
「えへへ、きょうだいだってー。じゃあ、あおくんはおとうとだね。きょうからよろしくね、あおくん」
そう言って、女の子はぼくをぎゅっと胸に抱きしめた。
感覚のないはずのこの体にも、彼女のあたたかさが伝わってくるような気がする。
──『あお』。ぼくは、あお。彼女の弟の、あお。
なんて甘美な響きだろうか。一流の職人からの賛辞でさえ、彼女がくれた二文字には遠く及ばないだろう。
何もできないこの身ではあるけれど、せめてぼくが朽ちるそのときまで、彼女を見守り続けよう。
だって、ぼくは彼女の弟なんだから。
──こちらこそ、よろしくね。あおいお姉ちゃん。
口には出せないこの想いが、どうか彼女に届くようにと、ぼくは祈った。
最初のコメントを投稿しよう!