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出会ってくれて、ありがとう。
ガラスケース越しに、キラキラとした眼差しがぼくを捉えた。
小さな女の子がぼくを指差して、母親に向かって叫んだ。
「ママ、あのこがほしい!」
「そうねぇ。もうすぐクリスマスだから、サンタさんにお願いしたら?」
「うん、わかった! おうちにかえったら、サンタさんにおてがみかく!」
女の子は母親の言葉に大きく頷き、手を繋いで元気よく去っていった。
──ああ、行ってしまうのか。
ぼくが静かに落胆したそのとき、今度は大人の男の人が二人やって来て、揃ってぼくを見た。
「これをください。包装はクリスマス用で」
「かしこまりました」
男の人がガラスケースを開けて、ぼくを取り出した。
ぼくは、この人にもらわれるのだろうか?
大切にしてくれるなら、それでもいいけれど。
……どうせなら、あの子にもらわれたかったというのは、過ぎた願いだろうか。
ぼくはここに来たときに入れられていた箱に再びしまわれ、視界は真っ暗になった。
***
箱に詰められたぼくは、しばらく箱ごと振動しながら、どこかへ移動させられたようだった。
あれからどれくらいの時間が経っただろうか。
視界も暗転したままで、人ではないぼくには感覚もわからないけれど、ある程度時間が過ぎた、ということだけはわかる。
「……よし、そろそろ寝たかな」
久しぶりに聴く、人の声。ぼくをもらってくれた、あの男の人の声だ。
男の人は、ぼくの箱を持ち上げて、慎重な手付きでどこかに置いたようだった。
「喜ぶといいなぁ」
期待を滲ませた声がポツリと箱越しに降ってきた。
どうやらあの男の人は、他の誰かにぼくをあげるつもりらしい。
ぼくもそれに異存はなかったし、ぼくの気持ちも同じだった。
──どうか、ぼくをもらってくれた人が、喜んでくれますように。
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