短編怪談集

３．父の愛した着物

「そういえば別居中の奥さんとの間には娘さんが一人いらっしゃるそうですね」

取引を終え嬉しそうに着物を見つめる父に男は不意に言葉をかけました。

「ええ、私に似ずに利発で優しい娘でして」

照れながら私のことを口にした父でしたが、何かに勘づいたように突然絶望的な表情になりました。

「あ、ああっ、まさか、そんな」

父の姿を見つめながら、男は意味ありげな笑みを浮かべました。

「そうですね、必然そういうことになります」

「……美咲、すまん」

絞り出された私の名前と謝罪の言葉にただならぬ恐ろしさを感じた私はそっと父の家を後にしました。