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しかし、お揚げが乗っているのであれば、きつねうどんならぬきつねラーメンでしょうか。
不可思議にも思いましたが、前を歩いていた着物の男性を呼び止めてこの辺でそんなラーメンを出しているお店がないか聞いてみました。
背後から声をかけたので気が付きませんでしたが、近くでお祭りでもしているのかその男の人は顔に白いきつねのお面を付けていました。
お揚げのラーメンのことを聞くなんて変な人と思われないかと心配しましたが、すぐにあるよという答えが返ってきて、その人もちょうど今から食べに行くところだということでした。
幸運にもあっさりお店のことがわかったので私は安心しました。
しかし、その安堵の気持ちとは裏腹にお面の男性の発した言葉に戦慄が走りました。
「もしかして、きみひかりちゃんかい、何年か前にそのラーメン屋に一緒に行ったよね、いやあ大きくなったなあ」
その男の人は私の名前を呼んで懐かしそうに話しかけてきました。
私は驚きながらもよく思い返してみれば、あの時のラーメン屋できつねのお面を付けた人と話をした記憶がありました。
しかし、私はその記憶に何か薄気味悪いものを感じていました。
するとそこに父親から電話の着信がありました。
「何言ってるんだひかり、尾道の旅行で食べたのはあなご丼で尾道ラーメンは食べてないだろう、夢でも見ているのか?」
「……だめっ!」
私は父親の言葉を本能的に止めようと叫びました。
結局、あの時父は私をラーメン屋には連れて行ってはくれませんでした。
父親の言葉から呼び起こされた夕食の記憶、それはお面の男性ときつねラーメンを食べた思い出とは違うもう一つの記憶でした。
「夢……どっちが!」
同時には存在してはいけない記憶、私の声はかすかに震えていました。
「ふふふ、尾の道できつねのラーメンなんて洒落てるよね」
男の声が大きく私の頭に響いてきます。
反対に電話の中の父親の声はどんどんと遠くに離れていきました。
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