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3.父の愛した着物
見知らぬ車がガレージに止まっていたので、来客中かなと思いながら玄関から入ると応接間から話声が聞こえてきました。
邪魔しても悪いと思いそっと中を覗き込むと父と向かい合って男の人がソファに座っていました。
テーブルの上には平たく大きな木の箱が置かれています。
「こちらがご所望の品物になります、お確かめください」
まるでどこかの土蔵から持ってきたかのようなその箱は相当古いものに思えました。
父が箱を開けると中に入っていたのは箱の劣化とは対照的な鮮やかな赤と白を基調とした着物で、その特徴的な色合いから神社などで見かける巫女の装束に見えました。
「取り敢えず二百万用意しています、足らなければ追加で」
父の口から出た金額に私は驚愕しましたが、母からは一緒に居てもつまらない男と蔑まれていた父にも熱狂する道楽があったことにむしろ安堵すら感じてしまいました。
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