千駄ヶ谷の坂

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千駄ヶ谷の坂

私が生まれた時、両親が住んでいたのは渋谷区、千駄ヶ谷(センダガヤ)。だから私は渋谷区生まれということになる。それだけ聞くとなんかオシャレなんじゃない?ところが、ソコが全くおしゃれじゃないところだったんです。 JR千駄ヶ谷駅から国立競技場(現在はオリンピックに向けて工事中)を右に見て明治通り方面へ歩き、大きな五差路交差点を左に細い坂を下る。五差路には「もみじ」という、かなり立派な不動産屋のビルが有った。「もみじ」だなんて…不動産屋の屋号としては粋すぎやしませんか?そう、なんとなく、あのあたりの土地柄が知れる感じ。私の邪推では、「もみじ」と言う屋号の他の商売で儲けた金で始めた不動産業が成功して本業になった、とかね。 こないだ積水ハウスが63億円だましとられ、「地面師」という言葉とともに注目された五反田の川っぺりにある古い旅館。テレビで何度も映されたの覚えてます? 高層ビルの合間に取り残された、古色蒼然としたあの大きな旅館をみて、今の五反田しか知らない人なら「あんなとこに旅館が有って誰が泊まるの?」と思ったに違いない。 五反田は今でこそ、都心の一等地ということになっているが実は千駄ヶ谷と同じ、後ろ暗い過去のある場所なんです。今でも駅の反対側は風俗店が多いけど 五反田の川べりは大正末期、鉱泉を掘り当てて以来遊興地となった。それをきっかけに、空襲で焼けるまで、あるいはバブルの地上げで荒らされるまで、一流とはいいがたい色街がひっそり点在したそうです。 セレブの象徴「シロガネーゼ」の行き交う白金や渋谷の高級住宅地、松濤のあたりも実は似たようなエアポケットが有る…消しても消えない、土地に染みついた匂い。そういうところはちょっとした谷とか、坂、川っぺりとかね。
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