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「懐かしくて、拾ったのじゃ。いつだったか、噂の真相を確かめに来た子らの中に酷く気の弱そうな子がおってな。不憫に思って助けてやった。それから、毎日ここへ来ては緋色のチョウを置いていったーーそう、面影がよく似ているのじゃあの子に」
ふわりと少女が舞う、頬に手が伸ばされる。温かさも冷たさもない。
「じゃあ、じいさんが言ってた恩人って……お前なのか?そもそも普通は恩人なんて、思わないと思うけど……」
「それが、その子の優しさなのではないか?もっとも朱には無さそうだが。
そうか……もうこの世にはおらんのか。人の子の命とは儚いものじゃ。だから朱が来た。自分の代わりにチョウを届けて欲しいと。では、チョウを緋色の蝶として黄泉に送ろう」
何処にあったのか、今までのチョウが緋色の蝶となって、空に還ってゆく。
それは不思議で歪な光景。
黄昏の空へと消えてゆく蝶。
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