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美枝子と義男、ブレイク
「チェーリッシュ、ユー・アー・マイ・デストニー…だってさあ、基子先生。やらかしてくれたマドンナのあの舞台見たら血がさわぐのよ。ダンサーの血が…」とマドンナのチェリッシュを口ずさみながらブレイクし続ける。「ほら、惑香。ゼフィルス一番の美女、あなたが踊らないでどうするの?カモナ・ヒア、レッツ・ブレイク!」と誘われるが惑香も基子どうよう片手を口に当て、いま一方の掌をその前でふるばかりだ。するとその時だった。
惑香の代わりというわけでもあるまいがひとりの男が美枝子の前にすっと立って、美枝子の振りを真似ては踊り出したのだ。それが義男だった。 彼を確認した美枝子が「また現れたわね」と告げてさらに「私を真似て」と云いざま義男の腕に自分の腕を絡め「これが1920年代のステップよ」と口上したあとで二人でクルクルとまわり出した。開いている手で時折り(架空の)シルクハットを持ち上げあいさつするような仕草と、そのステップがとても粋だ。しばらくステップを踏んだあとで腕をほどき互いを拍手し合った。惑香たち5人とまわりの観客たち(?)もやんやの喝采だ。
「いや、失礼しました。勝手にお相手させてもらって。本当に踊りが素敵で、本格的だったものですから。誰かがカバーしなければと…ははは、わが身の無様も、トーシローの身もかえりみずに、すみません」と一段落ついてあやまる義男に「いやいや、なんの。こちらのクリスチャンディオールで決めた女は何を隠そう、ブロードウエイ仕込みのプロのダンサーです。それに伍して踊るあなたもさすがだった」と云う麦子に「誰がクリスチャンディオールだ、この」と美枝子が云い「こいつの云うことは信用しなでください。プレタポルテです、これは」と自分の服装を断ってから「ま、プロのダンサーというのは本当ですけどね」とみずからを口上する。
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