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ご一緒させていただけませんか?
その義男の様子になにかを悟った風の美枝子が「いいでしょう。名前はお聞きしません。とにかく、わたしはこちらの美女の大親友なんです。ひょっとしてあなたの好敵手かも?…ふふふ。最後に握手をしていただけません?あなたのオーラを感じたい」と云って男のように義男に手を差し出した。一瞬とまどったが義男がその手を握る。二人の間に‘男気’の交錯とでも云ったものがそのとき行き交ったようにも見えた。その美枝子に、また別の面々にお辞儀をしてから義男は去って行った。そしてその日は公演が終わっても彼はもう彼女たちの前に現れることはなかったのだ。いまこうして偶然をよそおって惑香の目の前に再び現れるまでは…。
「あ、あなたは…え、ええ、一人ですよ。他の面々とはわたし帰り道が違いますので」と答えながらも惑香はなぜ彼がここに現れたのかをいぶしかんでいた。武道館前の九段下の駅の近くでならともかく、ここは青山にある喫茶店だ。なぜここに彼が現れたのか合点が行かない。はたして現れた義男は何者?…いまは気を引き締めるしかない惑香だった。
「ああ、そうですか。いやそれなら、もしお嫌でなかったら席をごいっしょさせていただけませんか?きょうのマドンナとか前回のふじ子ヘミングとか、まだ語り足りないところがあって…どうでしょうか?ぜひ‘あなたと’お話したいのですが」と同席を求める義男を許していいものだろうか、ためらわぬでもなかったが惑香は「え、ええ、どうぞ。わたしひとりでいいのなら」と同席を承諾した。 彼の正体を確かめたかったのもあるけれど、こうして一対一であらためて対面した義男になにかしら温かいものを感じたからだった。かもす雰囲気にとても好感が持てる。それと美枝子の云ったピュアさといったものも確かに伝わって来た。なにに対してピュアなのか、そこまでは知れなかったが。
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