雪解け

3/17
855人が本棚に入れています
本棚に追加
/479ページ
あいの家の湯船に浸かりながら 深くため息を吐いた。 売り言葉に買い言葉ってやつか。 あいとは些細な喧嘩もしてこなかったから ここ最近のゴタゴタは地味にダメージが蓄積してる気がする。 免疫が無いんだ。 俺は元々、あいに営業の仕事はやらせたくなかった。 やりがい以上に体力も精神的にもキツイ仕事だって事を誰よりも分かってるから。 ましてやあいは女の子だし 過去に対人関係で辛い思いをしてる。 あえてリスクを侵しにいく必要はない。 現に、今回。 あいのトラウマを作った張本人と遭遇してしまった訳だし。 『……くそ。なんでもっと注意しておかなかった……?』 自分に腹がたつ。 しかも1番近くであいを助けたのは 長峰君だった。 あいを変えたのは確実に彼だし 彼には他の人にはない、カリスマ性を感じる。 嫉妬するほどに。 『嫉妬か………こんなの初めてだ。』 嫉妬される事に慣れすぎてる時は なんて愚かな感情だろうと冷めた目で見てたけど、いざ自分が嫉妬する日がくるなんて。 『…………かっこわる。』 再び深いため息を吐くと うまくいかなくて咳き込んだ。 『日向さん?大丈夫ですか?』 脱衣場のドアが開いて、 浴室の扉の向こうであいの声がした。 『大丈夫だよ。』 『まだ風邪気味ですか?』 『いや、ほんと。ただむせただけ。』 『……そうですか。 タオルと着替え、ここに置いときますね。』 『ありがとう。』 ドアがしまった。 ひとりごと、聞こえてないよな? ますます格好悪い。
/479ページ

最初のコメントを投稿しよう!