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甘いワナ
土曜日だけど出勤して、リテイクした資料の最終チェック中。
『……はぁ~あ………』
『なんだよミネ。さっきからため息ばっか
幸せ逃げるぞ~?』
坂井さんが爽やかにからかう。
『こっちはこの後クライアントの接待なんだよ!』
『接待?ミネが?………………大丈夫?』
『知るか!…………はぁ……』
『長峰さん』
声をかけると、半分振り返った。
『プレゼン資料、問題ないと思います。
最終確認お願いします。』
『りょーかい。見とく。お疲れさん。』
『お先に失礼します。』
『お疲れ様。帰り気を付けて。』
『はい。坂井さんも。土曜日なんですから早くおうちに帰ってあげて下さいね。』
坂井さんと長峰さんを残して
フロアを出た。
数日前、あの会議室での作戦会議の後
すぐに加納さんの仕事用アドレスに食事の誘いを送った。
ものの5分で返信が。
『勿論、行けます。(はーと)』
思わず、3人とも苦笑い。
エレベーターはすぐにやって来て
乗り込んでスマホを見た
メールが1件。
「ごめん、やっぱり今週はそっちに行けそうにない。」
やっぱりね。
うん。
あのディナー券はこのために使われるべきなんだって事だよ。
日向さんは忙しい人だもん。
下手にチケット取れたとか言わなくて良かった。
私が勝手にやったことだし。
気を使わせたくないし。
仕方ない……
仕方ない……んだけど……
5階で扉が開いた。
『あれぇ?のじちゃん。
もしかして帰ろうとしてた?』
『関さん!お疲れ様です。』
『お疲れー。なんか元気ないね?』
『え?そうですか?
元気ありまくりですよ~♪』
スマホを鞄にしまって
笑顔を作った。
エレベーターが1階に到着した。
『……じゃ、行こっか!』
急に手を握られた
『え?あの?どこに……?』
『どこって。ご飯に。』
『えっ!?あの………ちょっと……?』
落ち込む暇もない。
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