白あんに花束を

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 こしあん、つぶあん、白あん。この三つ巴の戦いは古来より続く、果てしない戦いである。某チョコレート菓子の山と里のように、目玉焼きのソースとしょうゆのように、たとえ普段は『仲良し3人組』なんて呼ばれても、戦わねばならないときがあるのだ。 「ゆーみん! 中田ぁ! いくら他の派閥でもやって良いことと悪いことがあんだろうが!」  立ち上がって口火を切ったのは、つぶあん派の正太郎だった。実家が和菓子屋の彼はつぶあんの狂信者で、つぶあんをおかずにつぶあんを食べる変態だ。正太郎は赤茶色の髪を揺らし、あんぱんが入っていたパン屋の紙袋を片手に怒りをあらわにする。彼は「お前らマジあれだぞ! マジ!」とよく分からない言葉を放って、ちょっと静かになったと思ったらパンを拾おうとしゃがんでいた。 「いや、さっきのは勢いよく袋開けたお前のミスでしょ。俺ら何もしてないし。ねぇ由実さん?」  眉間にしわが寄る。俺は黒縁のメガネを指で上げた。 「ねー。しょーたんてばすぐ人のせいにする」  隣の席に座るショートカットの女子、由実さんが、肘をつきながら目を細めた。由実さんは正太郎の幼馴染で生まれた時から一緒だったそうだが、正太郎とは打って変わり穏やかで優しい。まるで花のような人だ。ただ、大好きなこしあんを侮辱されると、ゴキブリを見るような冷たい目でこしあんのまんじゅうを差し出してくる。それも無言で。要するに怒らせると怖いタイプの人だ。 「もういい。さっきすぐ拾ったしセーフだろ。お前らの行いはセーフじゃねえけどな」 「だから何もしてないって言ったよね」  事実、俺たち2人は席に着いたまま何もしていないし、あんぱんが落ちたのは正太郎の完全な言いがかりである。「たちの悪いヤンキーかよ」と呟くと「まぁ見た目もヤンキーっぽいしね」と由実さんはまた笑った。  戦いが始まると正太郎は話を聞かない。由実さんが慣れたように「まぁまぁ」となだめると、彼は俺たちの前の席にドカッと座ってこちらを向く。 「いや違う」 「は?」 「つぶあんぱんが床に落ちたのも……そもそもこの戦いが続いているせいだ! お前らがつぶあんの魅力を認めないからだ! というわけで今日のプレゼンはこちら!」
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