白あんに花束を

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 由実さんの言葉を途中まで耳に入れてから、俺は眉をしかめつつ口を開く。頭の中には今日の夏休み前集会の光景が浮かんでいた。 「お前、今日集会始まるギリギリに来たのって、まさか」  ふふん、と鼻を鳴らす音が聞こえる。音の主はもちろん正太郎。 「そう。朝一で開店と同時に行ってきたわ。遅刻数がヤバイ中行ってきた俺を褒めるがよい」 「馬鹿かお前」 「しょーたん、もしかしなくても留年するよ?」  冷静な言葉に正太郎は「まだわかんねーだろー」と目を逸らした。正太郎の昔からの悪い癖だ。彼は自分の都合が悪いときに話をすると、視線がどこかへ行ってしまう。  由実さんと俺にあんぱんが手渡される。どこか安心する柔い感触が心地よい。ずっしりとしたあんこの重みがあるパンに、他のあんこ派閥でありながら心臓が明るく弾んだ。由実さんも俺もつぶあん派ではないが、あんぱん自体は好きであった。 「遅刻3回で休み1回扱いになるからねぇ、うちの高校。出席日数足りないと留年するって知ってる?」  由実さんがほじくり返すように言い放つ。 「もうその話は終わり、パン、パン食べるぞオラ」  留年間近の本人は早口で急かした。そういえば先ほど床に落ちたあんぱんはどこかと視線を左右に動かすと「あ、落ちたのは俺が食うよ」と正太郎の声が聞こえた。  それぞれのタイミングであんぱんを齧る。
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