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由実さんが紙袋を折りたたんでゴミ箱に捨てると、
「さぁ追い詰められたな中田、どう出る? 圧倒的不利なこの状況で」
と正太郎がうさを晴らすように威張ってきた。なんだこいつ。
「は? まだ不利とか決まってませんけど?」
思わず早口になる。俺は戦いの数が違う。今日持ってきた料理も自信作だ。正直なところ、負ける気がしない。だが由実さんが遠慮がちに、俺にとっては弱点とも言える言葉を放つ。
「中田くん、モカルちゃんがメインのイベント来たんでしょ?」
「……なんで知ってんのもう」
思い切りため息を吐いた。暇さえあればやっているスマホアプリゲーム・『クロウスファイター』。その中で一番好きなキャラクターの名が出る。ゲームの中でイベントという期間限定のシステムがあり、期間内に条件を満たせば、報酬として特別なキャラクターやアイテムがもらえるのだ。
「課金いくらした?」
由実さんが首を僅かに傾ける。彼女はゲームのことはよく分かっていない。だが課金した? ではなく課金『いくら』した?と尋ねてくるあたり、俺のことをよく分かっている。
今回のイベント報酬は、俺の一番好きなモカルちゃんである。当然のごとく現金を注ぎ込んで、ゲーム内で使うお金に換金、いや課金した。正直高価なあんこの菓子や料理を買う余裕なんてない。それに白あんは他のあんこより少々割高なのだ。
「3000円。とりあえず」
「とりあえずってなんだよ。まだ追加で課金する気だろお前」
心臓が跳ねる。図星であった。
「そんなに金浪費してると、120円のコンビニの唐揚げ、全部10円玉と5円玉で払うようになるからな。先月みたいに」
「その情報は言わなくていいだろ」
ナチュラルに恥ずかしい出来事をほじくり返された俺は、冷静を保とうとゆっくりと息を吐き、大きく吸う。
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