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「……なあ、ポンちゃん」
「職場では本城さん、と呼べと言ってるだろうがサイボーグ」
エレベーターを降りた海外組は
フロアの奥にある
会議室へと向かい歩いている。
呼びかけた斉賀の声に
ボソッとたしなめるようにつぶやく本城の背を、野村レイは黙って目線だけ送る。
「なぜ、あの女性社員の名前を知ってたんだ?あの子…確か、国内営業部二課の新人だったと思うが、違うか?」
斉賀の見聞に
本城は鼻の息だけで笑いながら
「お前だって知ってるのは何故だよ?可愛いからかぁ?ジュリアちゃんに言うぞ」
軽口を切り返す。
フロアの通路を歩きながら
黙って聞いていた野村レイは
「あの子……一課の宮村から聞いてるわ。入社してすぐに芹沢と寝たとかなんとか…女子の間で悪評があるんですって。でも私には…そんな風には見えないわねぇ。先日も資料室で保存文書のラベリング作業をしてたけど、手際もいいし備品や脚立の片付けも丁寧で、静かだった」
野村の意見に斉賀は頷いて
「俺も…噂に信憑性を感じないな。もし真実ならば、女好きの芹沢がもっとベラベラ武勇伝を言いふらしてそうなモンだろが。それに新人女子とは言え、転職で入った早々、面倒を起こすタイプとは思えない」
二人の、それぞれの見解を聞いて
本城は腕時計をする手で
自らの顎をゆっくりと撫でる。
「…どうやら、『もうひとつの噂』が本命のようだなぁ。ノム、その宮村って奴から、もうちょい情報を引っ張ってくれ。それから斉賀、先日話した『アシスタントの件』、あれな、さっきの子も候補に入ってる。ウッチーにはこれから話すが、まずはノムの情報を待って……だな」
ふふふ。
不敵に笑う本城を見やりながら
斉賀はこれから起こる波乱を想定しつつ、低い声で
「大将自ら動くなら、お誘い合わせで頼みますよ?本城さん。」
口元を上げながら、どこか楽しげに笑った。
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