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オレンジ色の西日が
ビルとビルの間から延びて
このオフィスの窓へと届いている。
頼まれた買い物から戻った私は
大きな窓の外を見ながら
静止している内野さんの後ろ姿を見つけた。
いつからだろう。
………時々あんなふうに
ぼんやりと外を眺めている彼を
見るようになった。
背を向けているので
どんな表情かわからない。
少しでも近づけば
彼はたちまち、
瞳に映る世界から戻ってしまう。
今日もそうだった。
私が側に行き着く前に
気が付いてこちらを振り返る。
口元に小さな笑みを乗せて
「……ああ、おかえり。」
無防備だった右手を
ポケットにかけて
身体の重心を斜に構えると
顔を少しかしげて見せる。
“お疲れ”ではなく、
“おかえり”。
その言葉には
彼がさっきまでいた世界の香りや
いろ模様が残っているようだった。
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