Prologue

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「死ぬ前にどうしてもやりたいことがあるんです」  正面に座る少女がじっと僕を見つめる。迷いのない、真っすぐな茶色の瞳で。彼女の膝の上できゅっと握られた小さな拳は微かに震えている。その手は、ありがちな表現だが陶器みたいな白さだった。 「へぇ、面白そうな依頼ですね。ぜひとも聞かせてください」  自然と口角が上がるのが分かる。新しい玩具を与えられた幼子のように、胸を高鳴らせた。くすぐられた好奇心が赴くままに僕は彼女の依頼内容を訊ねる。 「その……どんなことでも引き受けてくださるんですよね?」 「依頼料を頂ければ何でもしますよ。さすがに殺人とかは無理ですが」 「さ、殺人だなんてそんな……物騒なことはお願いしません」 「冗談ですよ。僕が出来ることであれば、基本的にはどんな内容でも構いませんよ」  営業スマイルは絶やさぬまま、彼女にそう促す。薄暗いこの場を恐れてか、はたまた僕の雰囲気に怯えているのか、彼女は微かに唇を震わせていた。その姿は宛ら、蛇に睨まれた蛙だ。 「……何を言っても引きませんか?」と彼女はおずおずと訊ねてきた。 「はい、もちろんです」  か細く響くソプラノの声に、僕はこれ以上ないくらいにこやかに微笑した。  ……さぁ、早くその依頼内容を聞かせてよ。  噴水のように溢れかえりそうな好奇心を飲み込んで、僕は彼女の返答を待つ。  しばらくしてようやく決意が固まったのか、彼女は顔を上げて真っすぐに僕を見つめる。  そして、薄闇を吹き飛ばすような大きな声で叫んだ。 「――私と恋人関係になってください!」
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