Name1:恋人(仮)

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「じゃあ、改めてよろしく。碓氷さん」  営業スマイルを貼り付けて言えば、碓氷さんはびくりと肩を揺らして「ひっ……!」と怯えた声を零した。名前を呼んだ瞬間、碓氷さんは文字通り飛び上がって一歩後退った。 「……あの、何でそんなに怯えてるわけ?」 「ご、ごめんなさい……緊張してて」 「あぁ、別に取って食ったりはしないから安心してよ」 「はい……」  できるだけ優しく笑ったつもりだが、彼女の顔は蒼白だ。他人に滅多に興味を抱かない僕が珍しく気になった人なのだから安心してほしい。依頼人である以上はそれ相応の対応はするし、同学年の少女をいたぶる趣味だって毛頭ない。  ……ここまであからさまに怯えられると、さすがに傷つくな。 「ついでに敬語もやめてよね。僕、本当は堅苦しいの苦手なんだ」 「わ、わかりました……じゃなかった、わかった。できる限り頑張るね」  胸の前できゅっと両手を握り、碓氷さんはぎこちなく微笑した。「助かるよ」と返せば、彼女はホッとしたように息を吐いた。 「あの……ところで、貴方の名前は?」  碓氷さんは、僕を見上げながら尋ねた。僕はその問いに、一瞬だけ口ごもる。  は、何でも屋をやっている以上避けられない問いだ。それもそうだ。名前も知らない人物は怪しいことこの上ない。初対面とはいえ、これから依頼をする相手なのだから名前を訊ねるのは当然だろう。  でも、正直この問いにはどうしても困ってしまう。受け答えは慣れているから、もう大丈夫だけど。 「あー、好きに呼んでよ」 「え……?」  碓氷さんは首を傾げた。僕の言葉の意味が分からないようだった。  だから、僕はからかうような微笑を湛えて、彼女に向かって言った。 「――僕、んだよね」
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