Name4:夢

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 十一月も終盤になると、目前に迫った冬の空気が肌を刺し始めた。さほど温かくもない淡い日差しが、窓から転がり込んでくる。今日はここ数日の中でかなり冷え込んでいるからか、吐く息が多少白く染まっていた。  あれから一か月が経過した。  碓氷さんとは、週に二、三回のペースで会っている。一か月前に比べたら、僕らの仲は多少深まったかもしれない。特別、彼女に興味や好意を抱いているわけではないが、彼女と居るのは別に悪い気はしなかった。  今日は、碓氷さんが僕の家――正確にはアパートの部屋に来る日だ。理由も目的も聞かされていない。そのうえ、迎えに行こうとしたが、何故か拒否されてしまった。もしも途中で体調を崩して倒れたらどうするつもりなのだろうか。  僕が柄にもなく心配していると、インターホンが鳴った。ちゃんと辿り着けたのかと内心ホッとしながら扉を開けると、寒さをも吹き飛ばしそうな眩しい笑顔が顔を覗かせた。 「おはよう、名無しくん!」 「おはよ。一人で歩く街はどうだった?」 「なんだか新鮮だったよ」  白い息を吐きだしながら呑気に笑う碓氷さんに、心配して損したと微かに呆れの気持ちが生まれた。 「そう。倒れたりでもしたらどうするわけ?僕がいつでも助けに来てくれると思ってるの?」  腕を組み、叱るような口調で言う。
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