一、白き終焉

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 汚された、と、そう思った。  目の前の可愛い教え子を、途方もなく遠く感じる。  このお媛サマは、一つ諭せば十まで見通すといった天才肌ではない。それでも、幼い頃から思考を厭わず、あれこれと様々に見方を変えて真意を突く鋭さがあった。師として誉まれである以上に、学者として刺激的な相手だった。  しかしその情熱は、純粋に学問への興味ではなく、ひたすら俺への好意だったらしい。  聡明な教え子が、少し賢いだけの俗物でしかなかったことは衝撃であり、詐欺に遭った気分だ。  勿論、冷静に、そんな感覚を嗤う自分もいた。  動機が不純なだけに真摯な態度とは言い難いものの、彼女が前のめりに励んできたことは間違いない。俺が彼女とのやり取りを楽しんできたことも事実だ。  今更純情振って神経質にとやかく言うこと自体、滑稽だった。  しかし、血濡れた手を掲げ闇に染まり、自分の色を求めることすら忘れ堕ちていた俺に残った唯一の光が、学術なのだ。加害者の俺を引き取り導いてくれた大恩あるオヤジからの大切な遺産でもある。     
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