一、白き終焉

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 ろくでもない俺の唯一純白な領域であり、俺の心の拠り所だったその場所に、下心で以て入り込まれたことは、無遠慮に手垢をなすり付けられたも同然だった。  その不愉快を、どうにも見過ごすことができない。  紅潮した顔を俯けて、少し震えながら俺の言葉を待つその恋情を、途方もなく厚かましく感じた。 「御意向に背くわけには参りません」  言い切って、深々と頭を下げる。彼女の視線から逃れるのに、最敬礼は実に都合が良かった。  俺は、本日付で彼女の専任講師を解任された。今後地方にある国学院で教鞭を取るよう、皇命を受けている。 「しかし」 「梅宮は、素晴らしい生徒でございました。これ以降は私一人の論理に捉われることなく、知見を広め、見識を高めてください」 「先生、わたくしは」 「梅宮。どうぞ、お健やかにあらせられませ。宮は素晴らしい君主となりましょう」  皇位継承は神が仕切るのがここ豊秋国のしきたりであり、そこに人の意図を挟めないのが建前だ。ただ、思慮深く努力家な梅宮を、俺は高く評価してきた。賢王になりそうだなどという妄想だけでなく、彼女の即位を積極的に願う程には、彼女に入れ込んでいた。  今となってはそんな台詞も単なる挨拶でしかなく、それが淋しい。  その一抹の寂寥を覆うように、虚しさが広がり始めた、その時。     
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