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「それをお望みならば、やはり先生は、わたくしの傍にいていただかなければなりません」
決意したと語る堅い目の強さに、逆らい難い光を感じて、俺は少し気圧されてしまった。
そこにできた沈黙に、梅宮は容赦なく言葉を連ねる。
「ツヅ様。どうぞ、わたくしの指添となってください」
それは神に誓う特殊な従者の名称だ。
中途の解約は許されず、主人に絶対服従。生涯を懸けて主人に尽くすという誓約を求められる。それを見事成し遂げた暁には、素晴らしき第二の人生が与えられるという噂だった。
余所者の俺からすればかなり眉唾なもので、どこまで本当なのか判らない。しかしその立場の特殊性は公に認知されていた。
つまり、もし俺が梅宮の指添になれば、俺は梅宮の傍に遣えることが最優先されることとなり、今回の人事異動も当然に白紙だろう。
だが、
「私は、忠誠を誓う主人と愛を交わすことはできません」
従者としての立場を与えられながら愛人と成り果てる愚を犯したくはない。梅宮が俺に男を感じ取っている以上、その意味での破綻を容易に想像できる。
睨むように見つめた梅宮の目は、しかし揺らがなかった。
「わたくしも、先生にそのような無礼を働くつもりはございません」
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