一、白き終焉

8/15
前へ
/15ページ
次へ
 俺の言葉を受けて、頷いたような動きが感じられる。それから間を置かず、梅宮の凛とした声が部屋に響いた。  「我が名は明。そなたの命を、我、明に預けよ。日神の子たる我等が茜君(あかねぎみ)に誓い、我が指添(さしぞえ)となれ」  “梅宮”は個人名ではなく、王の第一子としての称号だ。性別を問わず生まれた順に継承される号であり、“桃宮”、“桜宮”、“藤宮”と続く。  対して“明”は、神から与えられた彼女のみを指す真の名だろう。消して明かされる事がないと言われる名を告げられ、事の重大さに今更緊張が深くなる。 「承服いたしました」  俺が重々しく応じると、唐突に、床しか見えない俺の視界に、梅宮のものでない靴が入り込んだ。女物の小さな靴は祭司用の古風な型で、細かな装飾がふんだんに施されている。  何者だ、と、そう思うよりも、気配なく現れた存在への警戒で筋肉が引き締まる。即時、一歩踏み込んで梅宮が背後になるよう体を返しながら、上半身を起こして戦闘態勢に入った。  腰刀の柄をグッと握りしめて見据えたその空間には、しかし何者も、何も、なかった。  見間違いなどということは決してない。  あれが神なのかもしれなかった。   安直にそう思ったのは、何もなかった自分の左手の甲に、紅色の紋様が浮き上がっているのを目の端で確認したからだ。指添(さしぞえ)の印痕であろうか。     
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加