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となればどうやら、指添の儀式は無事に終わったのだろう。
警戒だけは緩めずさらりと周囲を確認し、俺は改めて梅宮に向き直った。
「我が主が幾久しく朗らかに咲き誇ることを我が唯一の望みとし、心よりお仕え申し上げます」
「貴殿が、末永くその印と共にあらんことを」
梅宮は、輝かしく美しかった。
元々俺の人事異動は、梅宮と俺を引き離すことが目的であったと言え、それほど俺の存在は梅宮に馴染まぬものだった。
皇命は大々的なものではなかったが、それでも学院に話は通っており、取り消すとなると不自然さは如何ともしがたい。
“指添だから”の一言で解消するものとも思えたが、一従者としてでなく側近として俺に発言権・実行権を与えたいとする梅宮の意向で、指添であることは今回伏せることになった。
指添の地位が特別低いということはないが、皇族や貴族が指添になることはない。
皇族に直接仕え秘書としての役割を担う側近等は当然貴族が勤めるため、指添が側近の地位を得ることはない。
そういった慣例的な事情で、差別的な不便のないように、という梅宮の配慮だ。
しかしその関係を秘匿した為、梅宮と俺が不適切な関係だと、しばらく声高に噂された。いや、元々あった噂に火が付いたというのが真相だろう。俺が胡散臭い人間なだけに、ろくでもない噂は長く燻り続けた。
それでも梅宮は凪いだ海のように静かに強く、あらぬ批判の中を毅然として歩いた。その姿は美しく、神々しくさえあった。
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