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第2話 夢
時計の針は少し巻き戻りキリコがデビューする少し前に時は遡る。
「せんせぇ さようならぁ」
「気ぃつけて帰れよぉ」
コロニー「KYO」のとある小学校 下校時これから何して遊ぼうか 眩いばかりの笑顔集まる校門を守護する女がいた。
宇宙時代にこんなジャージと竹刀の似合う体育教師も珍しい。
かつて業界を席巻した 魔獣 切原ヌエコ 今は地元小学校の体育教師だ。
一時は集中治療室に入れられ 生死の境をさまよった。
しかしそこから医者も驚く回復を見せ 日常生活にはなんの支障も無く過ごせるまで持ち直した。
しかし未だ多量の薬を飲み続けなければならず 定期検診も受けている。
そんな体たらくであの神聖なリングに戻るなど出来る訳が無い。
例え医者が許可しても自分が許さない。
そんな半病人がノコノコ上がっていい場所では無い。
それでも生きていかねばならない。
学生の頃 念の為と取っていた教員免許がまさか役に立つとは思わなかった。
今は小学校で子供達相手に体育を教えている。
元々姉御肌で面倒見の良いヌエコは子供達にも真剣にぶつかり小さな声に耳を傾けてくれる頼もしい大人気の先生だ。
今日も帰路につく子供達を見守り そこから教務室に戻って書類作業
これまで人を痛め付ける事ばかりに励んで来たので最初はプリント1枚作るのにも手こずっていた。
しかし今は慣れたもの プロレスラーだった頃は想像もしていなかった。
引退からもう長い時が流れたがこんな生活も悪くない。
そう思っていた。心の底から。
しかし昨日届いた一通のメールが穏やかだったヌエコの胸の泉に波紋を広げる。
送り主はかつての雇い主 神妖ノ門社長 神戸からだった
「久しぶりに飯でもどうだ?」
短くそれだけの文章だった。
もうプロレス界からはキッチリ足を洗ったヌエコ
これまで二人三脚で団体を切り盛りしてきた神戸社長だが そんな彼とも随分ご無沙汰だった。
恐らく飯だけでは済まない
そんな気もしたが断る理由も無い。
ヌエコはいつもより手早く仕事を片付け 久しぶりに早く職場を後にする。
気取った飯屋では無い それに相手もヌエコ=ジャージが焼き付いてる相手だ。
家にも戻らず 体育教師のままヌエコは待ち合わせの居酒屋を目指す。
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